痔の日帰り手術
痔の日帰り手術
私たちの体は、通常便が漏れないように肛門は閉じていますが、それには肛門括約筋(こうもんかつやくきん)とともに、その内側でクッションとしての役割を担う静脈叢(じょうみゃくそう:毛細血管のかたまり)が関わっています。痔核とは、排便時の強いいきみなど、日常生活の中で長期間肛門に負担をかけるうちに肛門付近の血行が悪くなり、静脈叢がうっ血してこぶ状に拡張したものをいいます。形状がイボに似ているため「イボ痔」とも呼ばれています。痔核はいくつかある痔のタイプの中でもっとも多く、一般に「痔」というとこの痔核を指します。直腸と肛門の境目(歯状線:しじょうせん)よりも上側の直腸(粘膜)部分に発生するものを内痔核といい、下側の肛門(皮膚)部分に発生するものを外痔核といいます。内痔核は、もともと肛門内にありますが病状が悪化して大きくなりそれを支える組織が弱くなると、肛門外に脱出したり、こすれて出血したりするようになります。
内痔核の治療には、大きく分けて保存療法と手術療法がありますが、その中間には外科的治療として硬化療法があります。それぞれの治療方法を丁寧にご説明し、個々の症状や患者さんの事情に応じた最善の治療方法を選択します。
保存的治療では、痔を悪化させないようにする生活療法と、症状を緩和する薬物療法を併せて行います。痔の発生や増悪には、刺激物、アルコール、消化に悪いものなどの食事習慣や、座りっぱなし、立ちっぱなし、重い荷物を持ったり踏ん張ることが多いなどの生活習慣、また便秘や固い便、それに伴い長時間トイレにこもったり強くいきむことが多いなどの排便習慣、などが密接にかかわっています。生活療法ではこれらを改善していくことが大事です。薬物療法ではこれら生活習慣の改善に加え、経口薬で痛みを和らげたり痔核の血流の改善を促したり、便を柔らかくする薬や下剤を処方することもあります。さらに注入軟膏や坐薬で痔核の腫れや出血、炎症を抑えていきますが、症状の改善には数週間~数か月かかることが多く、改善しない場合もあります。その場合、次のALTA硬化療法や手術加療を検討します。
内痔核を切らずに患部に直接注射をして治療する方法です。注射液には硫酸アルミニウムカリウム及びタンニン酸(ALTA:アルタ)という有効成分が含まれており、この作用によって痔核の出血、脱出(脱肛)といった症状を改善します。
具体的には、まず、速効性の血流遮断作用により止血と痔核の縮小効果が得られます。さらに痔核に炎症反応を生じさせ線維化を起こすことによって痔核を硬化・退縮し、粘膜に固着させて脱出を消失します。このALTA硬化療法は、手術以外に治療法がなかった脱出する痔核に対して適応となる画期的な治療法です。
肛門部の局所麻酔や麻酔なしで行うことも多く、ALTAの注射は痛みを生じない内痔核のみに行うため、術後の痛みや出血は極めて少なく、日帰り手術で通常生活への復帰が期待できます(外痔核に対しては痛みが強くなるため使えません)。
患者さんにとって負担の少ないALTA療法ですが、正しく注射をしないと合併症として直腸狭窄や直腸潰瘍を来す可能性があります。そこで、合併症を予防し、かつ十分な効果を得るためには内痔核周囲を4カ所にわけ、適量ずつ注射する4段階注射法という特殊な注射手技が必要となります。この注射手技は日本大腸肛門病学会が指定する講習会を修了した医師のみが実施できます。
内痔核と外痔核のどちらにも有効で、根治性と汎用性が高く、症状の軽重を問わず適応となる一般的な痔核の術式です。術後の痛みや出血が多いといったデメリットもあります。
脊椎麻酔(下半身麻酔)が必要なため術前後の準備が必要であったり麻酔が切れるまでの時間がかかるため在院時間が長くなりますが、日帰り手術で行うことが可能です。
まず痔核を外側から切除していき痔核を露出させます。次に痔核に血液を送っている血管(痔動脈)の根元を縛り、痔核のみを部分的に切除します。切除した後の傷口は、術後に溶ける吸収糸で縫い合わせて閉鎖しますが、完全に閉鎖してしまうと細菌感染のリスクが高まりますので半閉鎖にとどめ、外側の皮膚や肛門管の部分は解放しておくことが多いです。そのため術後しばらく出血や疼痛が続くことが多いですが、ALTA硬化療法後に再発してきた病変や外痔核成分を含む痔核の根治に非常に有効な術式です。
痔瘻とは、直腸と肛門周囲の皮膚をつなぐ瘻管(ろうかん)というトンネルができてしまう痔のことです。「あな痔」とも呼ばれ、男性に多くみられます。初期の段階は肛門周囲に膿(うみ)がたまり(肛門周囲膿瘍:こうもんしゅういのうよう)、その膿が自然に出たり、切開によって排膿(はいのう)されたりすると、のちに膿の通り道が残ることがあります。この膿のトンネルやしこりになった組織が痔瘻です。化膿の原因となる細菌が侵入する穴を1次口(原発口)、膿がたまる部分を原発巣、膿が出ていく外側の皮膚開口部を2次口と呼びます。
痔瘻は、痔核(イボ痔)や裂肛(切れ痔)と異なり、薬で治すことはできず、治療には手術が必要となります。手術を行わずに長年放置してしまうと肛門変形の原因になったり、まれにがん化(痔瘻がん)したりすることもあります。痔瘻がんは一般の肛門がんに比べて、悪性度が高いとされていますので、痔瘻と診断されたら速やかに適切な治療を受けることが重要です。
肛門周囲膿瘍で切開排膿を行い、その後、繰り返さずに治癒が見込めるようであれば、それ以上の治療(手術治療)は必要ありません。しかし、肛門周囲膿瘍を繰り返す場合や膿の排出後、はっきりとした瘻管を形成している痔瘻の場合は、根治手術が必要となります。そのまま放置していると、痔瘻が枝分かれして複雑化したり、肛門変形の原因になったり、まれにがん化(痔瘻がん)することもありますので、注意が必要です。
肛門周囲腫瘍の時期は膿がたまるにつれて痛みがひどくなり、発熱も伴いますが、膿が出てしまえば症状は改善します。そのため肛門周囲膿瘍の治療では、まず皮膚を切開して膿を出す「切開排膿術」が行われます。肛門周囲の皮膚、あるいは直腸肛門内の粘膜に切開を加え、たまった膿を外に排出し、十分に膿の出口を作った後に、抗生物質や鎮痛剤を投与します。
膿の排出後、瘻管が残り痔瘻になった場合は、根治手術を行います。瘻管は、肛門の機能を支える括約筋の間を走行したり、括約筋を貫通したりしていることが多く、手術方法は、肛門の機能に問題が起こらないよう括約筋に十分注意して、痔瘻の方向や走行、深さなどに合わせて慎重に選択します。代表的な手術方法には、「瘻管切開開放術」や「括約筋温存手術」がありますが、「シートン法」による治療や処置も、その安全性と簡便性から広く行われています。
痔瘻(とくに複雑痔瘻)の手術は専門性が高く、高度な技術と経験が必要になりますので、直腸肛門部の外科治療に熟練した医師を受診することが大切です。
便秘や下痢によって肛門上皮(肛門出口付近の皮膚)が切れたり裂けたりする病態のことで、一般的に「切れ痔」と呼ばれています。排便時に出血や痛みを伴います。発症後数日で回復する急性裂肛と、裂肛を繰り返すことで傷が深くなり、やがて潰瘍になってしまう慢性裂肛があります。慢性裂肛では痛みが持続し、傷の内側に肛門ポリープや外側にイボを形成することがあります。さらに進行すると肛門が硬くなり出口が狭くなってしまう肛門狭窄を起こすこともあります。女性に多く、とくに20~40代に好発します。
急性裂肛の治療は、原因となる便秘や下痢を改善して傷を治す保存的治療が基本となります。便通を整えるとともに、軟膏や座薬を用いた薬物療法によって多くの場合、治癒します。慢性裂肛になると、保存的治療で治る可能性が低くなり、薬物療法で症状が改善しない場合は、手術療法を考慮します。手術内容は症状の程度によって異なりますが、軽度であれば用指肛門拡張術あるいは側方内肛門括約筋切開術が行われ、進行して重度の肛門狭窄を起こしている場合は、肛門の外側の皮膚の一部を移動して肛門を広げる肛門皮膚弁移動術などが適応されます。
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